猪野正哉(いのまさや)さんの事業の失敗、多額の借金… 行き着いた先に「焚き火」があった
「焚き火の本」に書いてあるような雑草をくべて虫を追い払うとか、僕もまだまだ知らないことが多いなと思ったんですが、こういう知識はどうやって身につけていったんですか?
これは父親を見て覚えたんですよね。
父は赤十字に務めていたので、ロープワークとか、アウトドアに関する知識経験が圧倒的に多かった。とはいえ、当時から教わるのは大嫌いだから、教えてもらったことはないんです。そんな父を見ていて、自然と覚えたというか。
そこが、今の猪野さんの原点なんですね。その後、大人になって「焚き火マイスター」になるというのも、おもしろいです。
求められていたことをやっていたら、いつの間にか「焚き火マイスター」になっていたんです。
何一つ自分が編み出したことはないのですが、周りに求められるがままにやっていたら、いつの間にか仕事になっていました。
ただし、ここまで平坦な道ではありませんでしたよね。18歳でメンズノンノの専属モデルとなった後、27歳でお知り合いの方と服のブランドを立ち上げますが上手くいかず、事業パートナーからの裏切りもあり、一人で多額の借金を背負うことになったとか…。
ある意味、それで焚き火に逃げたんです。
するとある日、両親がやってきて、3人で焚き火を囲むことに。
焚き火を前にすると面と向かって話さなくていいから、楽に借金のことを話せました。火がいいワンクッションになったというか。
目線を合わせなくていい、火を見ていればいい。それで、当然借金が減るわけではないけど、気は楽になった。
その時のご両親は?
「ああそうか」と。驚くことはなかったね。
今でもご両親と焚き火を囲むことはあるんですか?
撮影後に火の番をしているときに、父親が来て自然と一緒に焚き火をしていることがありますね。
リアルな話をするのが苦手な男同士、焚き火を囲んで一緒にいるだけでも、いい時間になるのかもしれませんね。
「主役はぼくではなく、焚き火だから」 教えない焚き火のワークショップを開催する意図
「おわりに」に書いてあった“「なんだ、思ったより簡単じゃん」「焚き火マイスターなんて誰でもなれるじゃん」と笑い話のネタにしてもらえたら本望”という一文が印象的でした。
先生になりたくないんですよ。火を起こすのは日常ですることだから、俺が上に立つ必要がないと思っていて。そもそも、人の上に立つことが好きじゃないんです。
「メンズノンノでモデルとして雑誌に出ました。次テレビ?」「本出しました。次猪野くん何やるの?」と期待されるのがイヤだから、自分も人に期待しないし。
教えない焚き火のワークショップも、やってますよね。
それも、「はじめにたくさん失敗してください」というのがテーマで。
自由にやってください。どうしてもできなかったらポイントだけ教えます、と。変な話、講師役の自分がしっかりしていないから(笑)、参加者同士がすごい仲良くなるんですよ。
参加者同士で教え合ってるんですか?この講師、何も教えてくれないよねって?(笑)
そうそう。たぶん、俺が一方的に教えたら、参加者同士のコミュニケーションがなくなってしまうんですよね。あえて教えないことで、縁が生まれるかもしれない。
それ狙ってやってるんですか?
……狙ってます。
本当は「このやり方楽だな」と、思ってるんじゃないですか?(笑)
……思ってます(笑)。
でもまあ、主役はぼくじゃない。焚き火が主役だから、それでいいんだと思います。
焚き火との向き合い方は、人柄が出る! 猪野さんと槻編集長の焚き火占い…?
「石橋薪を焚べる(フジテレビ)」で監修をさせてもらっているのですが、石橋貴明さんは全く火を見ないんですよ。目の前にとっても魅力的なゲストがいるから。
本当は、そういう魅力的な人と焚き火をするのがいいんじゃないかとも思います。炎の方に目が行っちゃう人って、たぶん、心に何か抱えているというか。
焚き火あるあるじゃないですけど、煙は美人の方に流れていくって誰か言ってましたよね。
いっぱい燃やす人は自己顕示欲が強いとか。
焚き火占いみたいな会話ですね(笑)。
常にトングを持って薪をいじっている人は、テレビのリモコンも常に持ってる人かも。せっかちなのかな、とか。
焚き火って人柄出ちゃいますね。