2024年4月16日、パリ五輪・パラリンピックの聖火採火式が行われました。ギリシャを出発した聖なる炎は5月8日にフランス・マルセイユに到着したあと、68日間をかけてフランス領を巡ることになります。これまでの五輪と同様、聖火はトーチによって運ばれますが、今回のパリ五輪で使われるトーチの製造に、日本企業が携わっていることをご存じでしたか?トーチの心臓部とも言える燃焼機関とボンベの製造を担当しているのは、キャンパーなら誰もが知っている燃焼器具ブランド「SOTO」を手掛ける新富士バーナーなのです!

トーチに組み込まれた、SOTOのマイクロレギュレーターの技術の詳細に迫る

画像: パリ五輪で使用されるトーチ。右端のボンベにガスを充てんして使用する(撮影:大森弘恵)

パリ五輪で使用されるトーチ。右端のボンベにガスを充てんして使用する(撮影:大森弘恵)

新富士バーナーといえば、その高い技術力と開発力でアウトドア用バーナーの名品を生み出してきた企業。まさに、“炎のスペシャリスト”呼ぶべき存在です。

長年にわたって着々と積み上げられてきた技術が聖火のトーチに採用されたのは、実は2回目。前回の東京五輪の聖火リレートーチの燃焼部も、新富士バーナーが担当していました。

そして今回、パリ五輪の大会組織委員会からの打診に応え、2度目の挑戦に至ったというわけです。では、いったいどんな技術が採用されたのか。まずは、トーチの全体像から見ていきましょう。

画像1: (撮影:編集部)

(撮影:編集部)

これまでのトーチは、炎が出る部分が広がったデザインのものが多かったようですが、パリ五輪のトーチはエッフェル塔とセーヌ川をイメージした上下・左右対称型になりました。上部がすぼまった、今までにはないユニークなスタイルとなっています。

画像: 中央の穴が炎の噴出口。右側に見える縦長のスリットからも、炎が出る仕様になっている(撮影:大森弘恵)

中央の穴が炎の噴出口。右側に見える縦長のスリットからも、炎が出る仕様になっている(撮影:大森弘恵)

面白いのは炎の噴出部の機構。炎が出るのは大きな穴が設けられた先端部分だけではありません。

聖火ランナーが走りはじめると、前方のロゴ部分から空気が取り込まれます。また、風を受けることで側面スリットからも炎が噴き出す仕組みになっているんです。

これによって、旗のように美しくたなびく炎が形成されるというわけです。

画像: トーチのフロント部分に刻まれた立体的なロゴは、空気の取り入れ口としても機能する(撮影:大森弘恵)

トーチのフロント部分に刻まれた立体的なロゴは、空気の取り入れ口としても機能する(撮影:大森弘恵)

新富士バーナーはそういった特徴を踏まえ、パリ五輪仕様のトーチに最適な燃焼部の開発に取り組むことになりました。

とはいえ、日本国内の企業がチームとなって動いていた東京五輪の際のトーチ開発とは違い、コミュニケーション面なども含めて色んな部分で勝手が違っていたと、開発担当・山本洋平さんは、当時の苦労を振り返ります。

画像: 新富士バーナー 山本洋平さん(撮影:編集部)

新富士バーナー 山本洋平さん(撮影:編集部)

「パリの組織委員会より打診があった時点では、トーチ本体はどんなデザインか、トーチを持ったランナーがどのようなコースを通るのかなど、まったくわからない状態でした。

東京五輪でもトーチの燃焼部を作りましたが、今回は先端がすぼまった形状、炎がたなびく機構など、条件が異なるため、一から設計しテストを重ねる必要がありました」(山本洋平さん)

画像: 筒(チムニー)がないと、赤い火と青い火が干渉してきれいな赤い火にならないのだとか(撮影:大森弘恵)

筒(チムニー)がないと、赤い火と青い火が干渉してきれいな赤い火にならないのだとか(撮影:大森弘恵)

手探り状態で始まった燃焼部の開発でしたが、そこはメイド・イン・ジャパンの心意気。最終的にはニーズに応える完璧なものを完成させました。

パリ五輪のトーチ用に開発された燃焼部パーツは、ただガスを燃やすのではなく、プラチナ発光やレギュレーターを組み合わせることで、雨や風、寒さといった悪条件に見舞われても消えない炎を演出します。

お気づきのとおり、そこにはSOTOの名品「レギュレーターストーブ」の技術が使われています。

画像2: (撮影:編集部)

(撮影:編集部)

用いている基本技術は東京五輪のトーチと同じですが、先端がすぼまった筐体のデザインを考えると、燃焼部は先端付近ではなく筐体中央あたりに収めなければなりませんでした。

燃焼部の位置によってはきれいな赤い炎にはならず、その調整が大変だったそうですが、苦労の甲斐があって60km/hの突風や50mm/hの雨にも耐えられるものに仕上がりました。

画像: メ〜テレ「ドデスカ+」より:パリ五輪の聖火を運ぶトーチ製造 「旗みたいにたなびく」炎の出し方を設計 愛知 (24/04/08 14:32) www.youtube.com

メ〜テレ「ドデスカ+」より:パリ五輪の聖火を運ぶトーチ製造 「旗みたいにたなびく」炎の出し方を設計 愛知 (24/04/08 14:32)

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カーボンフットプリント削減に貢献するガスボンベの開発も新富士バーナーが担当

画像: (撮影:大森弘恵)

(撮影:大森弘恵)

ちなみに、今回のパリ五輪で使用されるトーチの本数は2000本。予定されている聖火ランナーの数が約10000人といいますから、少々数が少ないような気がします。実際、過去のオリンピックで使用されてきたトーチの平均本数の5分の1程度とのこと。

これは、組織委員会がカーボンフットプリントの削減に注力しているため。トーチ1本を製造し、廃棄するまでに排出する二酸化炭素の量を極力抑え、環境に優しい五輪を目指しているからです。

聖火ランナーの人数よりも、遥かに少ない数のトーチでやりくりするうえで重要になるのが、聖火の燃料となる「バイオガスを充てんするガスボンベ」の存在。

簡単かつ安全に交換できるボンベの開発も、新富士バーナーに与えられた重要なミッションになりました。

「ガスを充填したボンベをねじ込めばオン、取り外せばオフとなります。この構造だから、素早く安全に繰り返し使えるトーチができたんです」(山本洋平さん)

画像: 今回のトーチはもちろん、製造した自社製品は一度水没させてガスを送り、漏れがないかチェックしたうえで使用する(撮影:大森弘恵)

今回のトーチはもちろん、製造した自社製品は一度水没させてガスを送り、漏れがないかチェックしたうえで使用する(撮影:大森弘恵)

トーチに込めた思いが、聖火とともにフランスの地を駆け巡る

画像: 新富士バーナー 山本晃社長(撮影:大森弘恵)

新富士バーナー 山本晃社長(撮影:大森弘恵)

新富士バーナーの山本晃社長は、今回のプロジェクト参加について

「聖火はともり続けることが重要で火が主役。平和の祭典の一端を担えるのは光栄なことです」

と語ります。

本体のデザインありきで、そこに合う燃焼部分を開発するのはかなり難しいことです。しかし、新富士バーナーはそれを見事にやってのけました。

多くのキャンパーに幸せをもたらしてきた技術が、世界的な祭典で存在感を発揮する。山本社長と開発チームの努力の成果は、映像として世界中のスポーツファンの元に届きます。

聖火を安全かつ確実につなぐトーチを作る。その任務は滞りなく完遂されました。あとは、開幕を待つのみ。山本社長は聖火台に炎が移される瞬間を心待ちにしながらも、さらに先のことまで見据えていました。

画像3: (撮影:編集部)

(撮影:編集部)

「聖火リレーのトーチに興味を持った人が、アウトドア用バーナーを常備して、日常的に使ってもらえるようになればいいなと思います。バーナーを常備していると、災害などで万が一インフラが途絶えた時にも役に立ちますし」

美しくたなびきながらフランスを駆ける聖なる炎。それを支えるトーチには、メイド・イン・ジャパンのたしかな技術と、熱いハートが内包されています。

(取材・文:大森弘恵)

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